12/5「医療・ヘルスケア分野におけるモバイル利活用の課題を探る」開催報告

2011年12月27日 Posted in 通信プラットフォームWG

IMG_4485.jpgIMG_4487.jpgモバイルデータ通信の高速化や、WiMAX、LTEなどの新たな高速モバイルインフラの登場で、移動しながら各種の情報を伝送するといった活用が医療分野においてもいよいよ現実味を帯びるようになりました。そこで、医療分野における先進的なモバイル利活用の試みを実践されている方々にご登壇いただき、それらの取り組みから見えてくる課題を整理していきました。

BBA新世代ブロードバンド研究会 通信プラットフォームWG第11回
「医療・ヘルスケア分野におけるモバイル利活用の課題を探る」開催報告

■基調講演「モバイル医療・ヘルスケアの現状と展望」
 国立保健医療科学院/元東京医科歯科大学教授 水島 洋氏

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医療・ヘルスケア分野で今後モバイルがどのように活用されていくのかといった、医療・ヘルスケア分野のモバイルに関する全般動向について、国立保健医療科学院上席主任研究官(元東京医科歯科大学教授)の水島 洋氏に基調講演いただきました。

水島氏は、冒頭に病院内の医療情報システムを事例として掲げられ、医療現場における情報化が病院を中心に広がりを見せていることを説明されました。しかしながら、医療現場で扱われる情報は膨大で、しかも複雑であり、しかも扱われる個々の情報はいずれも重要なものばかりであることを指摘、しかも画像を扱うのでデータ量も大きくなること、信頼性が高く、かつ巨大なシステムが必要となるなど、開発は容易でなくコストも膨大に掛かることを指摘されました。

さらに、医療現場では電子化を推進して業務を効率化したところで、それ自体が利益を生み出さないこと(医療情報システムそのものが売り上げを上げるものではないこと)が、医療分野の情報化の阻害要因ともなっています。

電子カルテは医療機関ごとにシステム構築され、病院ごとのスタンドアローンで利用するシステムでしたが、内閣官房が掲げる「どこでもMY病院」構想など、電子カルテのクラウド化や医療機関同士での共有化が期待されています。こうした流れの中で、今後の電子カルテシステムの推進に当たっては、情報を閲覧するのに端末を選ばないシステムの構築が求められ、ブラウザベースで利用可能なWeb型電子カルテシステムが主流になって行くとされています。

一方で、近年の医療分野の重要な課題である「地域医療の崩壊」「医師不足」などの解決のためにICTを活用して行くことへの期待も広がっています。少ない負担でより良い医療が求められる時代に、さらに超高齢化社会を迎えなくてはならないわが国で、有用なICT利活用を模索して行くべきとしてお話を結ばれました。


■講演「iPadを用いた救急搬送先検索システムと運用で見えてきた課題」
 佐賀大学医学部救命救急センター長・教授 阪本 雄一郎氏

IMG_4495.jpg佐賀大学・阪本雄一郎教授からは、佐賀県内の全救急車にiPadを配備し、搬送受入可能な病院を即時に検索できるシステムをご紹介いただきました。

救急医療におけるICT利活用で期待したいのは、「時間の短縮」。たとえば、一般的に大量出血を起こした場合、処置に取りかかるまでの時間が30分を超えると死亡率は急激に高くなると言われています。現在、救急搬送件数は右肩上がりで増えていると言われていますが、そうした中で一刻を争う救急搬送をよりスムーズに行うために、搬送先病院とのコミュニケーションを密にしていく必要性を感じます。

救急車から搬送先の病院を検索するシステムは、すでに構築され、運用が開始されています。しかしながら、この既存システムでは救急本部経由で医療機関を検索する必要がありました。しかも、情報更新は医療機関側に委ねられており、現実には多忙な医療機関においてまめな情報更新を行うことができず、結果として救急患者のたらい回しなどの要因になってしまうのだそうです。

そこで佐賀県では、救急車からダイレクトに病院検索ができるシステムを構築しました。救急車という利用環境を考えると、PCでは車内の揺れなどに対応できないこと、一方スマートフォンでは画面が小さすぎて利用性が悪い、ということで理想的な端末を模索している最中に、アップル社のiPadが発売され採用を決めたそうです。

このシステムは、医療機関側で当直医やベッドの空き状況などを随時更新するものでした。全国で利用されている病院検索システムでは、情報の更新頻度が低く、いざという時に有効に機能しない場合があったのですが、佐賀県のシステムでは更新頻度を上げるための些細な工夫が凝らされていました。たとえば、救急車側で病院を検索する際に、病院が表示される順番は情報の更新が直近のものから順に並ぶように工夫されました。さらに情報更新がしばらくされていない医療機関はグレー表示されます。このため、積極的に患者を受け入れて行きたいと考える医療機関では、情報更新を積極的に行うようになり、有効に活用される病院検索システムとして運用されるようになったということです。


■講演「救急車と病院を結ぶ映像伝送装置の活用と課題」
 広島大学高度救命救急センター助教 貞森 拓磨氏

IMG_4502.jpg次に、救急車に映像伝送装置を設置し、救命救急士が行う高度な救命措置を遠隔から支援できるシステムの運用を開始した広島県の事例を、広島大学高度救命救急センター助教の貞森 拓磨氏よりご講演いただきました。

広島大学は数年前から広島市消防局、および関係機関と救急現場からの映像伝送をはじめとする情報共有の研究を行ってきました。病院前救護においてICTを活用することで、傷病者の状態やバイタルサイン情報を、迅速かつ正確に伝達するために、救急車から医療機関に動画等を伝送するシステムを整備し救命士に指示指導助言を行うことを目的としています。

広島市及び近隣自治体が所有する救急車39台に生体モニター、ハンディカメラ、車載固定カメラを搭載し、映像、医用波形データ(MFER)を伝送装置を用いてサーバーに伝送しています。データは広島市内4病院に伝送され、PCおよびiPod等のモバイル端末で参照可能としています。

こうした取り組みは、メディカルコントロールの科学的かつ医学的根拠の整備とともに、ビデオ喉頭鏡の使用などをはじめとする救命士業務の拡大や医療リソースの適正化などに資するものと期待されています。

従来の救急車と医療機関とのやり取りは、そのほとんどが携帯電話による音声伝達によるものでした。しかし音声で伝えられる情報には限界があります。たとえば救命士の観察項目には、客観的なものとそうでないものがあります。患者情報を過不足無く伝えるには映像の活用がますます重要になっていくでしょう。


■講演「北海道とかち地区におけるFWA・3Gの利活用による救急医療画像伝送について」
 東京電機大学未来科学部研究員/琉球大学医学部特任講師 横田 勝彦氏

IMG_4505.jpg最後に、北海道十勝農村部において、3GおよびFWAを活用し救急車と病院間で動画伝送する実証実験を重ねる中で明らかになってきた課題について、東京電機大学未来科学部情報メディア学科研究員の横田 勝彦氏よりご報告いただきました。なお、横田勝彦氏は、今回の登壇者の中で唯一情報工学側を専門とする立場からの視点での報告になりました。

北海道は集落が広い範囲に点在することから、いわゆる遠隔医療の一層の推進が期待されている地域です。また、救命救急において、救急搬送時のカバーエリアが他の地域に比べて非常に広いということが特徴として掲げられます。搬送距離が長いために、救急車と病院との情報連携は重要なものとなります。患者の状態を搬入前から一刻でも早く、そして正確に病院へ伝送することが今後求められて行きます。

そうした中で、地域FWAを使った救急車と病院間を結んだ動画伝送に関する実証実験を行ってきました。FWAのほか、NTTドコモ・FOMAの3Gネットワークも用い、比較検証なども行っています。

広島市の事例も含め、それらの医療情報伝送は大半が実証実験レベルと言われています。政府が予算を投じて、実証実験はできたとしても、重要なのはその後の運用をどのように実現させていくかです。横田氏もこの点について、国の予算でハードは入れることができても、その後の通信費などの運用費が払えない自治体が多いことを指摘していました。

また、モバイルネットワークの不感地帯の解消も今後重要な課題となりそうです。こうした救急医療において医療情報の伝送が必要なケースは、山間部などのへき地での活用が求められる一方で、こうしたエリアではモバイルネットワークの整備が行き届かない一面もあり、自治体を含めどのような体制で通信インフラを構築して行くべきかを今後議論して行く必要があるといえそうです。